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「世界一愛されるチーム」はどうつくられるのか ― 北海道日本ハムファイターズ 木田優夫GM代行 特別講演会レポート

先日、「木田優夫GM代行 特別講演会」に参加しました。 
テーマは、「ファイターズが目指す 世界一愛されるチームについて」

北海道日本ハムファイターズの木田優夫GM代行が、講演会で椅子に座りマイクを持って話している様子を、会場の参加者越しに撮影した写真。

本記事に掲載している写真は、木田さんご本人の了承を得た上で掲載しています。

プロ野球チームという、結果がはっきり数字で可視化される世界で、 「世界一愛されるチーム」を掲げるとはどういうことなのか。 
そして、そのビジョンをどのように現場のマインドセットや制度・環境に落とし込んでいるのか。

組織開発・人材開発・アジャイル支援に携わる立場として、 
この講演はまさに「生きた組織開発のケーススタディ」だと感じました。

 1. ビジョン:「世界一愛されるチーム」とは何か

講演の中で何度も印象的に語られていたのが、 栗山英樹前監督のビジョンです。

 「世界一愛されるチームになりたい」

ここでポイントだと感じたのは、 このビジョンが単に「北海道のファンから愛される」だけに留まっていないことです。

  • 北海道のファンに愛される 
  • 日本中の野球ファンに愛される 
  • さらには、世界中の野球に関わる人たちから愛される

そのようなスケールで、「世界一愛されるチーム」というゴールが語られていました。
さらに、このビジョンは次の一言に落とし込まれています。

「世界一愛されるチームとは、世界一愛される選手の集合体である」

だからこそ、木田さんは現場の選手たちに対して、

「世界一愛される選手になってほしい」

と伝えているそうです。

ここでの「愛される」は、 単なる人気者になることでも、外向きのイメージ戦略でもありません。 
講演の中で語られた数々のエピソードから見えてきたのは、むしろ「あり方」としてのプロフェッショナリズムでした。

2. 「愛される選手」の条件:マインドセットと行動

2-1. 自分がどう見られているかを意識し続ける

長嶋茂雄さん、明石家さんまさんの名前が何度も登場しました。
共通しているのは、

  • つねに「自分がどう見られているか」を意識していること 
  • その上で、ファン・観客・視聴者がどう感じるかを大切にしていること 
  • コメント一つ、振る舞い一つにまで、丁寧に意味付けをしていること 

「長嶋茂雄は、長嶋茂雄たる行動をしている」 という言葉が印象的でした。

これはビジネスの世界に置き換えれば、 リーダーやマネージャーが「自分のふるまいが、チームにどう映っているか」を常に自覚している状態とも言えます。

2-2. ライバルではなく、チームメイトとしてのスタンス

プロ野球は厳しい競争社会です。しかし木田さんが強調していたのは、

  • 「ライバル」ではなく、「チームメイト」であるという認識 
  • 誰かの失敗を願うのではなく、心からチームの勝利を願うこと 
  • ベンチにいるときも、誰よりも前に出て声を出し、仲間を応援する姿勢 

という、チーム志向のマインドセットでした。
メジャーリーグでの経験として紹介されていたのは、

  • どんなスーパースターであっても、チームのために動けない選手はロッカールームで信頼されない 
  • 逆に、ベンチから誰よりも声を出し、 仲間にポジティブなフィードバックを送り続ける選手は、 周囲から深く愛され、チャンスも巡ってくる 

という、非常にリアルな現場の空気感です。
ここには、「個人の成果」よりも「チームの勝利」を優先するという、 
プロフェッショナルとしての価値観がはっきり表れています。

3. 環境・制度のデザイン:選手のコンディションとファン体験の両立

講演では、選手のマインドセットだけでなく、 それを支える環境・制度の話も多く語られました。

3-1. 従業員満足度の視点で設計された環境

エスコンフィールドのケータリングやロッカー環境の話は、 完全に「従業員満足度」を意識した設計だと感じました。

  • いつでも食事とケアができるケータリング環境 
  • 動線を含めたロッカー・トレーニング環境 
  • 試合前後のコンディション維持を前提としたオペレーション 

これはビジネスで言えば、「メンバーがパフォーマンスに集中できるように、 組織側が制度と環境を整える」
というサーヴァントリーダーシップの実践です。

3-2. 試合結果を超えた「ファン体験」のデザイン

もう一つ印象的だったのが、「ファン体験」の捉え方です。

  • 勝つことは最大のファンサービスである 
  • しかし、1年間戦っていれば負ける日もある 
  • だからこそ、たとえ負けた日でも「エスコンに来てよかった」と思ってもらえる体験価値が必要 

という話がありました。

つまり、

  • 試合結果(アウトプット)だけではなく 
  • ファンが持ち帰る体験(アウトカム)をデザインする

という視点が、明確に共有されているということです。

4. アジャイル組織としてのファイターズ

アジャイル開発や組織開発の文脈で見ていくと、 ファイターズの取り組みは「スポーツ版アジャイル組織」として捉えることもできます。

4-1. ビジョンをプロダクトビジョンとして扱う

  • 「世界一愛されるチーム」という明確なビジョン 
  • 「世界一愛される選手」という単位にまで分解されたゴール

これはプロダクト開発で言うところの、

  • プロダクトビジョン 
  • ユーザーストーリー/行動特性

に相当します。

4-2. マインドセットと環境の両輪

  • 選手のマインドセット(チーム志向・ファン志向) 
  • それを支える環境・制度(ケータリング、ロッカー、球場体験)

という両輪でアプローチしている点も、 アジャイルな組織づくりと通じるものがあります。

4-3. 顧客(ファン)との共創

  • ファンを「結果の受け手」ではなく、価値共創のパートナーとして捉える 
  • 球場体験を含めたフィードバックを踏まえ、環境をアップデートしていく 

これは、アジャイル開発における、

  • 顧客と対話しながら価値を共創する 
  • 小さな仮説検証を繰り返しながらプロダクトを進化させる 

という考え方とほぼ同じ構造に見えます。

5. ビジネス組織への示唆:世界一愛される「チーム」とは何か

今回の講演を通じて、 ビジネス組織に対して特に強く感じた問いは、大きく3つです。

  • 1. 自社のビジョンは、「行動レベル」まで翻訳されているか? 
    •  「世界一愛されるチーム」→「世界一愛される選手」という分解 
    •  さらに、その行動特性がエピソードを通じて具体化されている
  • 2. 個人の成果とチームの勝利、どちらが優先されているか?
    • 価制度・フィードバックの現場はどうなっているか
    • 「ライバル」ではなく「チームメイト」としての関係性を設計できているか
  • 3. メンバーのパフォーマンスと顧客体験を同時にデザインしているか? 
    • 従業員満足度と顧客満足度を別々に扱っていないか 
    • 両者をつなぐ「場」「制度」「オペレーション」は設計されているか

プロスポーツの世界は、勝敗という「分かりやすい指標」に目が行きがちです。 
しかし、今回の講演から浮かび上がったのは、

> 勝ち続けるためにも、 
> 愛され続けるためにも、 
> チームの在り方と環境づくりが不可欠である

という、非常に本質的なメッセージでした。

おわりに:プロスポーツから学ぶ組織開発

現場(選手)、フロント、メジャーと日本、ファンと地域社会そのすべてを横断してきた方ならではの視点は、 一つひとつの言葉に重さとユーモアが同居していました。

LEAP ARROWSでは、 今回のようなスポーツのケースも取り入れながら、

  • ビジョンの再定義と行動レベルへの翻訳 
  • アジャイルなチームづくり 
  • 従業員体験と顧客体験をつなぐ組織開発・人材育成

といったテーマでの支援を行っています。

今回のようなスポーツの事例からも分かるように、“ビジョンが行動に翻訳され、チームの在り方として機能していくプロセス”には、
業界を問わず多くの共通点があります。
LEAP ARROWSでは、LEGO® SERIOUS PLAY®や対話の場を通じて、自社らしいビジョンづくりや、その言語化・意味づけを支援しています。

組織の「ありたい姿」や「共通言語」を見直したいなど、ビジョンづくりに関心をお持ちの方は、気軽にお声がけください。