はじめに:2025年を迎えた今も、DXが進まない理由 経済産業省の「DXレポート」では、日本企業が抱えるDXの課題が早い段階から示されてきました。...
「世界一愛されるチーム」はどうつくられるのか ― 北海道日本ハムファイターズ 木田優夫GM代行 特別講演会レポート
先日、「木田優夫GM代行 特別講演会」に参加しました。
テーマは、「ファイターズが目指す 世界一愛されるチームについて」
※本記事に掲載している写真は、木田さんご本人の了承を得た上で掲載しています。
プロ野球チームという、結果がはっきり数字で可視化される世界で、 「世界一愛されるチーム」を掲げるとはどういうことなのか。
そして、そのビジョンをどのように現場のマインドセットや制度・環境に落とし込んでいるのか。
組織開発・人材開発・アジャイル支援に携わる立場として、
この講演はまさに「生きた組織開発のケーススタディ」だと感じました。
1. ビジョン:「世界一愛されるチーム」とは何か
講演の中で何度も印象的に語られていたのが、 栗山英樹前監督のビジョンです。
「世界一愛されるチームになりたい」
ここでポイントだと感じたのは、 このビジョンが単に「北海道のファンから愛される」だけに留まっていないことです。
- 北海道のファンに愛される
- 日本中の野球ファンに愛される
- さらには、世界中の野球に関わる人たちから愛される
そのようなスケールで、「世界一愛されるチーム」というゴールが語られていました。
さらに、このビジョンは次の一言に落とし込まれています。
「世界一愛されるチームとは、世界一愛される選手の集合体である」
だからこそ、木田さんは現場の選手たちに対して、
「世界一愛される選手になってほしい」
と伝えているそうです。
ここでの「愛される」は、 単なる人気者になることでも、外向きのイメージ戦略でもありません。
講演の中で語られた数々のエピソードから見えてきたのは、むしろ「あり方」としてのプロフェッショナリズムでした。
2. 「愛される選手」の条件:マインドセットと行動
2-1. 自分がどう見られているかを意識し続ける
長嶋茂雄さん、明石家さんまさんの名前が何度も登場しました。
共通しているのは、
- つねに「自分がどう見られているか」を意識していること
- その上で、ファン・観客・視聴者がどう感じるかを大切にしていること
- コメント一つ、振る舞い一つにまで、丁寧に意味付けをしていること
「長嶋茂雄は、長嶋茂雄たる行動をしている」 という言葉が印象的でした。
これはビジネスの世界に置き換えれば、 リーダーやマネージャーが「自分のふるまいが、チームにどう映っているか」を常に自覚している状態とも言えます。
2-2. ライバルではなく、チームメイトとしてのスタンス
プロ野球は厳しい競争社会です。しかし木田さんが強調していたのは、
- 「ライバル」ではなく、「チームメイト」であるという認識
- 誰かの失敗を願うのではなく、心からチームの勝利を願うこと
- ベンチにいるときも、誰よりも前に出て声を出し、仲間を応援する姿勢
という、チーム志向のマインドセットでした。
メジャーリーグでの経験として紹介されていたのは、
- どんなスーパースターであっても、チームのために動けない選手はロッカールームで信頼されない
- 逆に、ベンチから誰よりも声を出し、 仲間にポジティブなフィードバックを送り続ける選手は、 周囲から深く愛され、チャンスも巡ってくる
という、非常にリアルな現場の空気感です。
ここには、「個人の成果」よりも「チームの勝利」を優先するという、
プロフェッショナルとしての価値観がはっきり表れています。
3. 環境・制度のデザイン:選手のコンディションとファン体験の両立
講演では、選手のマインドセットだけでなく、 それを支える環境・制度の話も多く語られました。
3-1. 従業員満足度の視点で設計された環境
エスコンフィールドのケータリングやロッカー環境の話は、 完全に「従業員満足度」を意識した設計だと感じました。
- いつでも食事とケアができるケータリング環境
- 動線を含めたロッカー・トレーニング環境
- 試合前後のコンディション維持を前提としたオペレーション
これはビジネスで言えば、「メンバーがパフォーマンスに集中できるように、 組織側が制度と環境を整える」
というサーヴァントリーダーシップの実践です。
3-2. 試合結果を超えた「ファン体験」のデザイン
もう一つ印象的だったのが、「ファン体験」の捉え方です。
- 勝つことは最大のファンサービスである
- しかし、1年間戦っていれば負ける日もある
- だからこそ、たとえ負けた日でも「エスコンに来てよかった」と思ってもらえる体験価値が必要
という話がありました。
つまり、
- 試合結果(アウトプット)だけではなく
- ファンが持ち帰る体験(アウトカム)をデザインする
という視点が、明確に共有されているということです。
4. アジャイル組織としてのファイターズ
アジャイル開発や組織開発の文脈で見ていくと、 ファイターズの取り組みは「スポーツ版アジャイル組織」として捉えることもできます。
4-1. ビジョンをプロダクトビジョンとして扱う
- 「世界一愛されるチーム」という明確なビジョン
- 「世界一愛される選手」という単位にまで分解されたゴール
これはプロダクト開発で言うところの、
- プロダクトビジョン
- ユーザーストーリー/行動特性
に相当します。
4-2. マインドセットと環境の両輪
- 選手のマインドセット(チーム志向・ファン志向)
- それを支える環境・制度(ケータリング、ロッカー、球場体験)
という両輪でアプローチしている点も、 アジャイルな組織づくりと通じるものがあります。
4-3. 顧客(ファン)との共創
- ファンを「結果の受け手」ではなく、価値共創のパートナーとして捉える
- 球場体験を含めたフィードバックを踏まえ、環境をアップデートしていく
これは、アジャイル開発における、
- 顧客と対話しながら価値を共創する
- 小さな仮説検証を繰り返しながらプロダクトを進化させる
という考え方とほぼ同じ構造に見えます。
5. ビジネス組織への示唆:世界一愛される「チーム」とは何か
今回の講演を通じて、 ビジネス組織に対して特に強く感じた問いは、大きく3つです。
- 1. 自社のビジョンは、「行動レベル」まで翻訳されているか?
- 「世界一愛されるチーム」→「世界一愛される選手」という分解
- さらに、その行動特性がエピソードを通じて具体化されている
- 2. 個人の成果とチームの勝利、どちらが優先されているか?
- 評価制度・フィードバックの現場はどうなっているか
- 「ライバル」ではなく「チームメイト」としての関係性を設計できているか
- 3. メンバーのパフォーマンスと顧客体験を同時にデザインしているか?
- 従業員満足度と顧客満足度を別々に扱っていないか
- 両者をつなぐ「場」「制度」「オペレーション」は設計されているか
プロスポーツの世界は、勝敗という「分かりやすい指標」に目が行きがちです。
しかし、今回の講演から浮かび上がったのは、
> 勝ち続けるためにも、
> 愛され続けるためにも、
> チームの在り方と環境づくりが不可欠である
という、非常に本質的なメッセージでした。
おわりに:プロスポーツから学ぶ組織開発
現場(選手)、フロント、メジャーと日本、ファンと地域社会そのすべてを横断してきた方ならではの視点は、 一つひとつの言葉に重さとユーモアが同居していました。
LEAP ARROWSでは、 今回のようなスポーツのケースも取り入れながら、
- ビジョンの再定義と行動レベルへの翻訳
- アジャイルなチームづくり
- 従業員体験と顧客体験をつなぐ組織開発・人材育成
といったテーマでの支援を行っています。
今回のようなスポーツの事例からも分かるように、“ビジョンが行動に翻訳され、チームの在り方として機能していくプロセス”には、
業界を問わず多くの共通点があります。
LEAP ARROWSでは、LEGO® SERIOUS PLAY®や対話の場を通じて、自社らしいビジョンづくりや、その言語化・意味づけを支援しています。
組織の「ありたい姿」や「共通言語」を見直したいなど、ビジョンづくりに関心をお持ちの方は、気軽にお声がけください。
