はじめに:離職は“突然”起こるのではなく、静かに積み重なる 「最近、人が定着しない」「若手がすぐ辞めてしまう」「中堅が疲れ切っている」 こ うした声を聞くことが増えています。
部下が動かないのは「能力不足」ではなかった|99%の組織が陥る“期待のズレ”という深刻な構造
はじめに:動かないのは能力不足ではない
現場では「伝えたつもりなのに伝わっていない」「なぜこうなるのか分からない」といったすれ違いが日常的に起きています。これは決して個々の能力の問題ではなく、組織内で“意味のズレ”が静かに広がっている状態です。
本記事では、現場で起きている“ズレの正体”を構造として分解し、なぜ部下が動かない問題が繰り返されるのかを整理していきます。
現場から次のような声が聞こえてくることがあります。
- 「何度言っても自走してくれない」
- 「考えて動いてほしいのに…」
- 「報連相が薄くて不安になる」
- 「どう判断していいかわからない」
- 「何を求められているのか不明確」
- 「勝手に動くと怒られることもある」
一見すると能力不足の問題のように見えますが、実際に現場を見ていると、多くのケースで原因は“期待のズレ”にあります。
今回は、部下が動かない職場に共通する「3つの隠れた構造」を整理し、その背景と改善のヒントを解説します。
1. 構造① 求められている役割の前提が揃っていない
管理職が想定している役割と、現場が「自分の役割」だと思っている内容がズレることがあります。
同じ「役割」を担っていても、次のように捉え方が違えば、当然行動は揃いません。

このズレは、上司と部下が「どんな役割を期待し、どう行動してほしいか」をそれぞれ違う前提で捉えていることが原因です。
目的が揃わないまま進むと、手戻りや判断の遅れが発生し、上司と部下双方のストレスが蓄積していきます。
目的のズレが生まれると、同じ業務でもメンバーごとに“別々のゴール”へ向かって動いてしまいます。
その結果、手戻りが増えたり、上司から見ると「なぜこうした?」と感じるアウトプットになってしまうなど、現場での摩擦が急増します。
● 管理職が期待していること
- 自ら判断して動いてほしい
- 改善案を積極的に出してほしい
- 部署全体を見て行動してほしい
● 現場が認識していること
- 指示された範囲を正確に遂行することが役割
- 勝手に判断してはいけない
- 自部署の仕事を確実に回すことが優先
● 現場で起きていること(例)
「期待されている状態」が伝わっていない
- 何を大事にして仕事を進めるべきかが曖昧
- 判断軸が揃っていないため、動きが止まる
教育が“行動”ではなく“やり方の伝授”になっている
- 仕事の意味・意図を共有せず、手順だけ伝えている
- 「なぜそれをするのか」が理解できず、自走しにくい
2. 構造② 判断基準(As-Is)が共有されていない
役割のズレに加えて、現状の捉え方が揃っていない職場は多く存在します。
管理職側は次のように感じています。
- 「もっと考えてほしい」
- 「自分で判断できるはず」
一方現場側では
- 判断してよいラインが見えない
- NG基準・OK基準を知らない
- “気を利かせた判断” が裏目に出た経験がある
- だから慎重になる(=動けない)
と感じています。
このように、“いま実際に起きていること”の共通理解がないまま、改善を求めてしまうことで、部下は追い詰められます。
判断基準は多くの場合、個人の経験や価値観に基づく“暗黙知”として扱われています。
そのため、お互いが自覚しないままズレが大きくなり、気づいた時には修復が難しい状態になっていることも少なくありません。
3. 構造③ 関係性のズレ(心理的安全性)が行動を止める
役割・現状が揃っていない状態が続くと、次に影響するのが関係性です。
次のような声が現場で増えていきます。
- 相談すると“自分の評価が下がりそう”
- 過去のやりとりで萎縮している
- 意見を言っても通らない経験がある
- 結果、判断が止まり、行動量も減る
こうした空気が漂い始めると、部下は次第に行動しなくなるのではなく、「動けなくなる」のです。
これは能力ではなく 関係性の問題。
行動量が落ちるのは「やる気がない」わけではなく、
“安全に動ける環境”が整っていないことが原因で、心理的な防衛反応が働きます。

4. なぜ“期待合わせ”が必要なのか
ズレが生まれる背景を理解することで、日々のコミュニケーションをどこから見直せば良いかが明確になります。
結論として、「部下が動かない」のではなく、“期待が揃っていないまま進んでいるだけ”
その状態で「もっと主体的に」と求めてしまうと、現場との間にギャップが広がり、離職につながるケースすらあります。
ここで重要なのが、次の3つです。
人はそれぞれ経験値や価値観、成功体験が異なるため、同じ言葉を聞いても“違う意味”で理解してしまいます。
ズレは生まれるのではなく“構造的に発生する”ものです。
だからこそ意味合わせは心理的安全性と再現性の高い組織づくりの土台になります。
期待合わせは以下の3つを揃えること
1.目的(Why)を言葉で揃える
- 何のためにその仕事があるのか
- 役割の本質は何か
- 仕事で大切にしてほしい価値観は何か
2.現在地(As-Is)と役割期待(To-Be)を見える形にする
- いま出来ていること・出来ていないこと
- 現場が抱えている制約
- どこにギャップがあるのか
3.小さく試し、すり合わせながら進める
- いきなり全体に広げない
- 「まずはこの範囲でやってみる」を一緒に決める
- 行動を通じて認識を揃えていく
5. 明日からできる「期待合わせ」の最初の3ステップ
- 役割の期待を30分で言語化する
- 目的が揃ったうえで、次に現在地の認識を合わせることで、無駄なズレを大幅に減らせます。
- 判断ラインの“OKとNG”を言葉にする
- まず1つの業務を一緒に振り返る
この3つだけでも、現場の行動は確実に変わり始めます。
意味合わせは、目的 → 現状認識 → 判断基準の順で揃えることで、行動の再現性が最も高くなります。
“どこから話すか”が重要で、この順番が揃うだけで対話の質が劇的に変わります。
6. 自力で進まないと感じたら
期待のズレは、現場だけで解消するのが難しいケースがあります。
- 役割構造の整理
- 部署間の調整
- 心理的安全性の設計
- チームの合意形成
- 小さく試すためのプロジェクト設計
これらが複雑に絡むため、外部支援を入れることで負荷が大きく下がり、結果として変化のスピードが高まります。
LEAP ARROWSでは、LEGO® SERIOUS PLAY® や対話の技法を活用し、個々の暗黙知や想像しているゴールを可視化することで、組織に潜む“期待のズレ”を構造から整える支援を行っています。
ズレは外部の第三者が入ることで、より短時間で明確になります。
まとめ:部下は“動かない”のではなく、“動ける環境が整っていない”
部下が自走する組織をつくるために必要なのは、厳しい指導ではなく、
➡「期待・前提・関係性」を揃えること
組織の変化は、小さな対話から始まります。
私たちが支援する組織の共通点は、“期待のズレ”を解消することで変わるということです。
合意形成が速くなる。
部下が自発的に動き出す。
会議が短くなる。
組織が変わらない理由は“能力”ではなく“構造”にあり、その構造を変える第一歩が「意味合わせ」です。
部下が動かないのは能力の問題ではなく構造の問題です。
意味が揃った瞬間、組織は驚くほど滑らかに動き出します。
まずは、次の1on1やチームミーティングで「目的」「現在地」「判断基準」を3分だけ確認するところから始めてみてください。小さな意味合わせが、組織の大きな変化につながります。